おもいしワークショップ vol.1 灘編

これは街の記憶をなぞろうとする街歩きです。

自分に馴染みのある街を歩くなら、その新旧入り交じった土地の変化もわかることでしょう。小さい頃に通った道(通学路など)を久しぶりに歩くと、以前のままのお店や寺社と一緒に、新しい建物や道などにも気づきます。 では、自分に馴染みのない街を歩いて、その地の記憶に近づくことはできるでしょうか。 今回歩いてみるのは、神戸市灘区のJR六甲道駅から阪神大石駅周辺です(もちろんこの辺りのことをよく知っている人もいるかと思います)。この地域は、1995年の阪神・淡路大震災で、とても大きな被害があったところです。ただ時が23年も経つと、それを知るのは容易ではありません。この街歩きでは、その地でいくつかのテキストを声に出して読んでみることもします。自分と離れた記憶へのアプローチを、街を歩くことからやってみる試みです。 


◎ ワークの趣旨や内容については1回目のレポートにも記しています。あわせてお読みください。

/// report ///

今回は、95年以降に生まれた学生さん(最年少は2000年生まれ)の参加が多かった。私以外の参加メンバーは初めてこの街を歩いた。前回は30代以上の参加者だったので、95年当時の記憶を自分なりに振り返ることが自ずと起きていた。今回は95年を振り返るというよりも、テキストとともに街を漂い歩いた感じだった。道中、民家の造りや個性的な佇まい、面白い看板など、現在の街の面白いものを、見つけつつ歩くなどした。

今回も、出発前の公園にていとうせいこうさんの小説『想像ラジオ』の冒頭を一人ずつ声に出して読んだ。(1回目のレポート参照)

そして出発。道中で、参加者の一人が歩きながら何かの機器を鞄から取り出した。尋ねてみるとアマチュア無線家だという…!

1回目と同じルートを歩いたが、当然のことながら交わされた会話も雰囲気も全くちがった。テキストを読み(テキストは前回から若干の変更を加えた)、石を置くこともした。今回は、この二つのワークが参加メンバー同士の共通項となっていた。

テキスト

テキストは、阪神・淡路大震災に関する手記、当時の噂話などのルポ、また直接関連しないが想像の種を蒔いてくれそうな小説を選んだ。

前者については、とくに「阪神大震災を記録しつづける会」が編纂した手記集を参考にした。同会は1995年から10年間、毎年手記を募集して手記集を刊行している。現在、書籍は絶版となっているが、サイトにてその全文を読むことができる。また、20年目にも冊子が発行されている。ここには、執筆者の個人的な想いや状態ーおそらく声に出して語る以前のーが綴られているものが多い。悲しみ、不安、違和、悩み、歓び、希望、ユーモアetc...さなかの言葉たちは、終止符のないまま記録された個人史の一頁であり、時を経て読む私たちに宛てられた手紙のようでもあった。

当時、遺体安置所となった灘区民ホールの対岸で、手記集第一巻より、遺体安置所で母の亡骸と対面したときのことが綴られた手記を読んだ。

石碑に刻まれた名前

街には震災や水害などの石碑やモニュメントが複数ある。紙に書かれた言葉と石に刻印された言葉。それぞれ、主体と宛先の異なる言葉のように思えた。

ある公園では、この付近で亡くなった方の名前が刻まれた慰霊碑がある。多くの慰霊碑では亡くなられた方の数が記されているが、ここでは全員の名前が記されていた。私たちは、一人ずつ、石碑に刻まれた名前を声に出した。

振り返りのお寺

終着点の妙善寺。ご住職のご好意により、本堂で振り返りをすることができた。


text : furukawa yuki


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今回置かれた石たち。ちなみに、初回のWSで置かれた石は姿を消していたことがわかった。

photo : yamazaki tatsuya


おもいしワークショップvol.1 灘編

 2018年10月28日(日)

 企画・ナビゲート:古川友紀

これは街の記憶をなぞろうとする街歩きです。 

自分に馴染みのある街を歩くなら、その新旧入り交じった土地の変化もわかることでしょう。小さい頃に通った道(通学路など)を久しぶりに歩くと、以前のままのお店や寺社と一緒に、新しい建物や道などにも気づきます。 では、自分に馴染みのない街を歩いて、その地の記憶に近づくことはできるでしょうか。

 今回歩いてみるのは、神戸市灘区のJR六甲道駅から阪神大石駅周辺です(もちろんこの辺りのことをよく知っている人もいるかと思います)。この地域は、1995年の阪神・淡路大震災で、とても大きな被害があったところです。ただ時が23年も経つと、それを知るのは容易ではありません。この街歩きでは、その地でいくつかのテキストを声に出して読んでみることもします。自分と離れた記憶へのアプローチを、街を歩くことからやってみる試みです。


◎ ワークの趣旨や内容については2回目のレポートにも記しています。あわせてお読みください。

/// report ///

10月14日13時、持ち物の石を手にして集合。庭にあったものや、昔拾った石など様々。自己紹介も兼ねてmy石について話してもらう。

地図(「阪神淡路大震災地図」)を広げながら今いる場所の確認や、1995年当時住んでいたところ(当時神戸在住だった方もいた)について話し合ったりした。

それから、出発前の準備として、ちょっとした身体ワークを。二人組になり、一人が目をつぶりもう一人がガイドとなってペアで公園内を探索。果敢にも滑り台や遊具にチャレンジするペアもあったりして結構盛り上がった。

すでに公園で40分くらいをここで過ごしていた。気持ちの良い気候なので、まだまだ公園で遊びたくなるところだが、そろそろ出発。

最初はこの公園の片隅で、いとうせいこうさんの小説『想像ラジオ』 の冒頭を読んだ。ひとり一文ずつ順番に声に出して読む。

東日本大震災が契機となって書かれたこの小説は、人々の想像のなかでON AIRされているラジオ番組「想像ラジオ」の話だ。ラジオ局もスタジオももちろん電波塔もないけれど、想像のなかで誰もがこのラジオを受信し、聞くことができる。

私たちは何かに思いを巡らせるとき、自ずと脳内で一人語りをしているように思う。それは自身に向けたモノローグのみならず、時に誰かに宛てた問いや願いとなることもあるだろう。この誰しもがする想像という行為が、作中ではラジオに置き換えられているのだと思う。私たちの一人語りは、個であると同時に他でもある。自分だけのものではなく他者とも電波をし合える。そして、そこに生者と死者の境もないことを『想像ラジオ』はおしえてくれる。

私は、いとうせいこうさんの「想像ラジオ」の力を借りて、このワークショップをはじめたいと思った。DJアークの軽妙な語りで始まるこの小説の冒頭は、私たちの想像力と、その送受信のスイッチをONにする装置だ。だから、これからはじまる道行きの前に、(まるでオープニングのごとく)皆で声に出して読みたい/その声を聞きたいと思った。

ルート

「おもいしワークショップ」の道行きで私はナビゲートをつとめる。あらかじめ決めたルートを道案内しながら参加者とともに歩く。道中で自分が知っていることがあればそれを喋りもする。私は神戸在住者でも、出身者でもない。震災については被災の経験があるわけではない。このワークをするにあたって、街について調べ、知ることは欠かせないプロセスだった。参加者もまた、今回の街歩きの経験は異なるものだったと思う。初めてこの街を訪れた人、近所に住んでいる人、かつて近くに住んでいた人、東北から引っ越してきた人、神戸には来るけれどもさほど良く知らないという人などなど。皆で同じ道を歩いたとしても、見ているものは人によって異なる。

今回は、震災当時、近所に住んでいた方が参加メンバーにいらっしゃった。その方は思い出してきた色々なことを、街を歩きながら喋ってくれた。その方の語りがきっかけになって、歩きながら参加メンバーどうして言葉が交わされていった。

テキスト

道中いくつかの場所で、テキストを声に出して読むというワークを行う。場所とテキストはあらかじめ決めている。テキストは、私がリサーチのなかで参考にしたり、深めてみたいと思ったもののうちから選んだ。ナビゲーターが語らずとも、テキストが私たちに多くをもたらしてくれると思った。(テキストとはもう一人の散歩者だったのかもしれない。) テキストと場所がある。そこに立ち、声をあげる/その声を聞く。そして歩く。「見立て」ともいえるこの行いを通じて、私たちが目にするもの、感じるものが多層なものになるのではないか。私たちはフィクションとリアルの間で、歩行する。 


もうひとつ、出発の前にお伝えしたことがある。石についてだ。街歩きのなかで、気になる場所があったらそこに石を置く、ということを提案した。「気になる」というのも曖昧な言い方だが、ここだという決め手があったらそこに、どこにも取っ掛かりがえられなかったらスナップショットを撮るような感じで置いてもらってもいい。置いたことを周囲に表明しなくともよい。これは、その人とその土地がピンポイントで繋がる、記憶の留め石のようなものだと考えている。

text : furukawa yuki


/// photo ///

photo : yamazaki tatsuya


おもいしワークショップvol.1 灘編

2018年10月14日(日)

企画・ナビゲート:古川友紀

おもいしワークショップ

10月14日(日)、10月28日(日)、10月29日(月)

集合 時間:13時 集合場所「六甲道駅北地区集会所 風の家

定員 5名

持ち物 石

申込 nimotonekotokame(at)gmail.com(古川)

note

・歩きやすく、また動きやすい格好でお越しください

・街歩きは小雨決行です(最終地点で解散します)


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企画・ナビゲート

古川友紀


主催

記憶の劇場ー大学博物館を活用する文化芸術ファシリテーター育成講座 活動⑥ TELESOPHIAと芸術・文化・生活 


当日の内容

出発前に…

・「風の郷公園」にて、震災やその記憶について話し合ったり、ちょっとしたボディーワークをします。

街歩き…

・JR六甲道駅〜阪神大石駅の周辺を歩きます。

・5カ所のスポットで、テキストを声に出して読む。

・気になる地点に持参した石を置く。

・最終のスポットは阪神大石駅周辺にある妙善寺さんです。ご住職さんのご好意によって、本堂で振り返りさせていただきます。