report /// vol.1 灘編 --- 1回目10/14

これは街の記憶をなぞろうとする街歩きです。 

自分に馴染みのある街を歩くなら、その新旧入り交じった土地の変化もわかることでしょう。小さい頃に通った道(通学路など)を久しぶりに歩くと、以前のままのお店や寺社と一緒に、新しい建物や道などにも気づきます。 では、自分に馴染みのない街を歩いて、その地の記憶に近づくことはできるでしょうか。

 今回歩いてみるのは、神戸市灘区のJR六甲道駅から阪神大石駅周辺です(もちろんこの辺りのことをよく知っている人もいるかと思います)。この地域は、1995年の阪神・淡路大震災で、とても大きな被害があったところです。ただ時が23年も経つと、それを知るのは容易ではありません。この街歩きでは、その地でいくつかのテキストを声に出して読んでみることもします。自分と離れた記憶へのアプローチを、街を歩くことからやってみる試みです。


◎ ワークの趣旨や内容については2回目のレポートにも記しています。あわせてお読みください。

/// report ///

10月14日13時、持ち物の石を手にして集合。庭にあったものや、昔拾った石など様々。自己紹介も兼ねてmy石について話してもらう。

地図(「阪神淡路大震災地図」)を広げながら今いる場所の確認や、1995年当時住んでいたところ(当時神戸在住だった方もいた)について話し合ったりした。

それから、出発前の準備として、ちょっとした身体ワークを。二人組になり、一人が目をつぶりもう一人がガイドとなってペアで公園内を探索。果敢にも滑り台や遊具にチャレンジするペアもあったりして結構盛り上がった。

すでに公園で40分くらいをここで過ごしていた。気持ちの良い気候なので、まだまだ公園で遊びたくなるところだが、そろそろ出発。

最初はこの公園の片隅で、いとうせいこうさんの小説『想像ラジオ』 の冒頭を読んだ。ひとり一文ずつ順番に声に出して読む。

東日本大震災が契機となって書かれたこの小説は、人々の想像のなかでON AIRされているラジオ番組「想像ラジオ」の話だ。ラジオ局もスタジオももちろん電波塔もないけれど、想像のなかで誰もがこのラジオを受信し、聞くことができる。

私たちは何かに思いを巡らせるとき、自ずと脳内で一人語りをしているように思う。それは自身に向けたモノローグのみならず、時に誰かに宛てた問いや願いとなることもあるだろう。この誰しもがする想像という行為が、作中ではラジオに置き換えられているのだと思う。私たちの一人語りは、個であると同時に他でもある。自分だけのものではなく他者とも電波をし合える。そして、そこに生者と死者の境もないことを『想像ラジオ』はおしえてくれる。

私は、いとうせいこうさんの「想像ラジオ」の力を借りて、このワークショップをはじめたいと思った。DJアークの軽妙な語りで始まるこの小説の冒頭は、私たちの想像力と、その送受信のスイッチをONにする装置だ。だから、これからはじまる道行きの前に、(まるでオープニングのごとく)皆で声に出して読みたい/その声を聞きたいと思った。

ルート

「おもいしワークショップ」の道行きで私はナビゲートをつとめる。あらかじめ決めたルートを道案内しながら参加者とともに歩く。道中で自分が知っていることがあればそれを喋りもする。私は神戸在住者でも、出身者でもない。震災については被災の経験があるわけではない。このワークをするにあたって、街について調べ、知ることは欠かせないプロセスだった。参加者もまた、今回の街歩きの経験は異なるものだったと思う。初めてこの街を訪れた人、近所に住んでいる人、かつて近くに住んでいた人、東北から引っ越してきた人、神戸には来るけれどもさほど良く知らないという人などなど。皆で同じ道を歩いたとしても、見ているものは人によって異なる。

今回は、震災当時、近所に住んでいた方が参加メンバーにいらっしゃった。その方は思い出してきた色々なことを、街を歩きながら喋ってくれた。その方の語りがきっかけになって、歩きながら参加メンバーどうして言葉が交わされていった。

テキスト

道中いくつかの場所で、テキストを声に出して読むというワークを行う。場所とテキストはあらかじめ決めている。テキストは、私がリサーチのなかで参考にしたり、深めてみたいと思ったもののうちから選んだ。ナビゲーターが語らずとも、テキストが私たちに多くをもたらしてくれると思った。(テキストとはもう一人の散歩者だったのかもしれない。) テキストと場所がある。そこに立ち、声をあげる/その声を聞く。そして歩く。「見立て」ともいえるこの行いを通じて、私たちが目にするもの、感じるものが多層なものになるのではないか。私たちはフィクションとリアルの間で、歩行する。 


もうひとつ、出発の前にお伝えしたことがある。石についてだ。街歩きのなかで、気になる場所があったらそこに石を置く、ということを提案した。「気になる」というのも曖昧な言い方だが、ここだという決め手があったらそこに、どこにも取っ掛かりがえられなかったらスナップショットを撮るような感じで置いてもらってもいい。置いたことを周囲に表明しなくともよい。これは、その人とその土地がピンポイントで繋がる、記憶の留め石のようなものだと考えている。

text : furukawa yuki


/// photo ///

photo : yamazaki tatsuya


おもいしワークショップvol.1 灘編

2018年10月14日(日)

企画・ナビゲート:古川友紀

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