report /// vol.2 身体感覚探求編

今回は街歩きではなく、身体感覚探求編として室内でワークを行った。

場所は、おもいしワークショップvol.1の集合場所だった灘の「風の家」多目的室。部屋の外の公園では、秋晴れの昼下がり、親子や子供たちが遊んだり喋ったりしていて和やかな空気が流れていた。vol.2身体感覚探求編は、その傍らで行った密やかなワークとなった。


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参加者は、vol.1に参加した方だったので、改めて感想を語り合うことからはじめた。

今回のワークショップは、vol.1で用いたテキストを身体感覚に置き換えてみる試みだ。書かれた文章を、声に出して語るのとはちがう仕方で感受できないかというアイデアからはじまった。今回やってみたことは、テキストの「読み手」が聞く人の身体に触れるということを通して、その内容を伝えれないかという実験。


まずはペアで行う体ゆすりの脱力法からはじめた。一人が床に体を預け、もう一人がその人の腕や足を一本ずつぶらぶらと揺すってやる。次第に身体のこわばりや緊張が解けてくる。

次に、vol.1のテキストを改めて声に出して読んだ。

vol.1のテキストは、阪神・淡路大震災に関わるものであったり、直接の関わりはないが、街の記憶や人々の想像力について描かれた小説の一節などだ。今回はそのなかから、阪神・淡路大震災に関わる6篇を読んだ。被災者が綴った手記や震災後に巷で流布した小話などだ。下の動画は「阪神大震災を記録しつづける会」が編纂した手記集より、震災の5年目に記された文章「ある被害」(著 池田美樹さん)を読んだときのもの。

「阪神大震災を記録しつづける会」は、震災のあった95年から毎年、様々な人の手記を募り、編纂して、手記集を発行してきた。現在、95年からの10年間と、20年目に出版したものがあり、10年分の手記集は公式サイトで公開されている。そこには、震災直後の切迫した状態が記されたものから、月日が経つにつれて増してくる生活の不安や生き方への迷い、またはそれを乗り越えようとする意志など、様々な人の想いがしたためられている。

今回のワークでは、そのうちの一遍「遺体安置所の母」(著 長濱恵子さん)より、文中にでてくる身体の動きや感覚、状況が描写されている箇所を選び、その描写を相手の身体のうちで再現しえないか、方法を探った。二人組で読み手と聞き手に分かれ、聞き手は目を閉じて床に身体を横たえ、読み手は先ほどピックアップした箇所を、言葉を発する代わりに相手(聞き手)の身体に様々な仕方で触れることを通して伝えようとした。

ピックアップした描写:地震で家屋が崩壊し梁に体が挟まれた/死化粧をする/検視のために服に鋏を入れる/毛布をかぶせる/遺体を運ぶ/お棺に入れる/余震

一言に「触れる」といっても、その仕方は様々だ。手を握る、指で肌の表目を滑らせる、指先で書く、関節をたたんで姿勢を変える、服越しに物があたる、身体を引き摺る(移動させる)、揺らす、風を送る、窓辺や日陰に移動させる(明かりを変化させる)、などなど。直接触れることもあれば、物や空気、光りを通して相手の身体に触れる方法もある。「読み手」は内容を伝えるためにはどのような工夫ができるか想像しながらやってみた。また、「聞き手」は常に受け身の状態ではあるが、何か気になったり不快に感じたりしたならば、いつでもワークを休止できるような環境で行った。交代で行い、その後フィードバックをした。

フランスの振付家ミリアム・レフコウィッツとジュリー・ラポルテの作品に、災禍や盗難などで消えてしまった芸術作品を、鑑賞者の身体に触れることを通して伝え、「鑑賞」してもらうという体験型のパフォーマンス「作品のない展覧会」というものがある。彼女らは、あるSF小説から着想を得て、未来で世界からすべての芸術作品が消滅したとしても、人間は見るのとは異なる別の方法で作品を鑑賞することができるのではないかというアイデアからこの作品を創作した。

今回のワークは、彼女らのこの手法を援用して試みたものだ。今見ることができないものとは、自分が立ち会わなかった未見のものや出来事、と言い換えることもできる。それは未来でもあり過去でもありえる。「記憶」という観点から捉えるならば、自分自身が直接体験した記憶でなかったとしても、その出来事の肌触りを感得し、より自身に引き寄せて考えることができるのではないかと思った。擬似体験を深堀して、未体験の出来事やその感覚に身体で出会い、自身の記憶に痕跡を残す。そのような試みとして行った。かたちに留めたり、結果を明らかにしたりすることが難しい内容ではあったが、参加者のうちで生じる感覚や気付きに焦点を定めた「おもいし」らしいワークとなった。

text : furukawa yuki


おもいしワークショップvol.2 身体感覚探求編

2018年11月10日(土)

ナビゲート:古川友紀・富田大介


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